バーク「修正される翻訳」

Carolyn Burke, "Translation Modified: Irigaray in English", 249-261.

1(249)

フレンチ・フェミニズムの書きものはエリート主義なだけではなく、そのような書きものが解明しようとしている諸理論によってかなり悪影響を受けているという懸念を乗り越えることは難しいと英語圏フェミニストたちは思っていた。イリガライのしようとしたパルレ・ファムではなくエクリチュール・フェミニンのほうに注意が集まっていた。

表現

piecemeal 少しずつ
contaminate 悪影響を及ぼす
demystify 解明する
bafflement 当惑

2(249-250)

イリガライの変化についていけない英語圏の読者。精神分析の伝統の批判と女に独特の言語の位置づけだけと考えられたいたから、パルレ・ファムについて考えられなかったし、イリガライがこの概念を超えて言説の性化を強調していることは気が付かれていなかった。

表現

take an interest in に興味を持つ
what become of はどうなるのか
savagely ひどく怒って、無作法に、どう猛に
prematurely 早まって
peculiar to に独特の

3(250)

性的差異を表象する可能性の調査の方法を強調するよりも、 素材に議論を限定してきた。

表現

mired in 困難な状況にはまった

4(250)

バトラーなどの位置づけにより、イリガライによる哲学再考が批判の他の仕方の基礎と考えられる。

疑問

Judith Butler, Elizabeth Grosz, Naomi Schor, and Margaret Whitford, among others, had begun to situate her writing in broader and deeper intellectual contexts, where her rethinking of philosophy could be seen as the ground of her other forms of critique. (250ページ三段落目の6行目)のher other forms of critiqueは、批判の他の仕方、つまり精神分析だけを批判したわけではない、ということ?

5(251)

書くことそのものに注意する必要がある。

表現

commission 任じる
forth-coming すぐ使える

6

翻訳では特有の表現法が消える

表現

idiosyncrasy 特異性

7

目的論的な順序を宙吊りにして統辞を放棄させるから、解説する。

表現

diagram図解する
parse 文法的に説明する
exasperation 憤激

8

イリガライはレヴィナスが他者を性的な存在として提示できないことを批判した。レヴィナスの愛撫についての考察は主体を男に、対象を女に割り当てる。

表現

intriguingly 興味深いことに
apparent 明白である
caress 愛撫

9(252)

エメとアマント(beloved)の区別をした。受動にたいする欲望の主体

表現

beloved 親愛な人たち(宗教)

10

『性的差異のエチカ』で、結論になることで、倫理が問題になる。性的差異の責任ある承認と、ダイアローグを組み合わせる愛的黄龍に位置づけられるアマント。ポジショナリティとエージェンシーを訂正する。female lover 愛する女と訳した。

11

なる、は、上り詰めるではなく、続いていく流れである。はてなをどうするか。

表現

optative 願望法

12

自己を愛するを言語で表せない。女の場合、移る場所であり運動であり、しかし移るものは含まない

13(253)

動詞の態も困る。絶え間なくリズムや大きさを探し求め、それ自身や他へのショートカットを探し求める別の動き。自分をその都度見つけ出すような話し方。目的論的な順序の代償を払っている。

表現

supple しなかやかな、

14

ダイアローグも精神分析的な意味から文化的なパラダイムとしての両性の「愛的交流」に変えられる。イリガライと男の哲学者との交流。性的差異の問を強制するため女の話し手に位置づける。無視される、「表面的な理性を支える幻想的組織化」

15(254)

英語圏の読者は引用の慣習を無視して、混ぜて書くことに困らされてきた。これは、女が二重の機能をもち、理論のコードに従わないから。また、引用への挑戦によって、両性の差異の何かが生じるかもしれない。前提を明るみに出す。

表現

vex 困らせる
mingle まぜる、つきあう
wager 賭ける
flout あざける

16

引用をイタリックにすることでダイアローグにすることで、メインテキストと同列に並ぶ。

表現

indentation ぎざぎざの刻み目をつけること

17

余白とかにも気を使っているが、主客、男女、内外の二項対立のあいだ、という三項目を出すだけでなく、「欲望があいだのスペースを占め、指し示す」エコノミーを提示する。注釈ではなく、ダイアローグの条件についての問いへの答えが求められると読者は思うかもしれない。

18

イリガライは、二人のあいだの承認においてこそ、未来の希望を見出した。あいだが指し示すのは、両性のあいだの敬意ありほれぼれするようで変わりゆくダイアローグである。
デイオティマはあいだにあるもの、無知と知のあいだの移行を可能にするものを強調していた。媒介としての愛。
メモ
一つの支配になりがちなペア

表現

tease out 苦労して引き出す
strand 脈略

19

「一般的に、空間をとることについてのこの形象は、「新しい」イリガライにとっての鍵の一つであり、そのイリガライの声は『性的差異のエチカ』において最もはっきりと現れている。その形象が前に出てくるのは、哲学的言語の後ろ盾が単語の「背後」にある物質性であるということをイリガライが思い出させてくれるときであり、それゆえイリガライが「記号のあいだで開くという絶え間ない実践」、つまり「記号と記号のあいだに肉を現れせしめること」を呼びかけるときである。また、その形象が機能するのは、イリガライが言語の身体化に対する無視された関係についてのこの見解に対応する散文を作り出そうとするときである。つまり、ディオティマのもののように、イリガライ自身のスタイルが「結び目を結ぶことなく言ったものと絡み合う」。特にイリガライが「中間的な領域、媒介、死すべきものと不死のあいだの永遠的な移行の時空間としての」愛の役割を喚起するときのことである。」

20

フランス語からイリガライ語へ、そしてイリガライ語から英語へ翻訳することで、背景となる物質性をちらりと見させる。

表現

of one's own accord ひとりでに
glimpse ちらっとみる
opaque 不透明体
strain to do

自(…しようと)筋肉[腱けんなど]を最大限に張りつめる≪to do≫;〈目・耳などが〉最大限に働く,いきむ
https://dictionary.goo.ne.jp/word/en/strain/

疑問

256ページ一段落目最後の行
テキストの文字は精神を真似しようとしている。(the letter of the text strains to imitate the spirit.)

21

ハイデガーのinstance デカルトのadmiration (wonder)
語源、物質的過去に開く

表現

Immediacy 近接性、即時性
awe 畏敬の念
in miniature小規模の
miniature
retraversal 再-横断

22

『性的差異のエチカ』では、関係を愛するスタイルと考え方のスタイルが重なっている。
言説の構造の分析と、新しいスタイルの創造は、人生に対する異なる規範を定めるために必要である。

23(p. 257)

それ以降は、言説の構造の分析に重点が置かれるようになったが初期の著作では何かを行うのではなく、何かのヴィジョンを認識する(spell out)預言者的声だった。翻訳はしやすくなったが、イリガライの本領はダイアローグと、二重のスタイルにある。

表現

voice を表明する
prophetic 預言者的な
deceptively 見かけによらず

Irigaray runs the risk of seeming more accessible, but at the expense of the subtlety of the analyses that preceded these recent books—on which their “lucidity” depends.
p. 257

24

言語などによって忘れ去られたものとしての原始的で還元不可能な性的差異がイリガライのメッセージである。女性ジェンダーが物質的なものつまり人間以下として放棄されたことによって、文明社会の袋小路に陥っている。性化された存在としての相互承認と、女性の主体の地位への到達可能性によってのみ、変革し得る。

表現

Chernobyl チェルノブイリ
set aside 取っておく、除外する
dereliction 放棄
salutary つらいが有益な
concomitant

疑問

What is this message, the urgency of which (particularly since Chernobyl) has caused Irigaray to set aside her work in language to speak about language, in the hope of reaching a wider audience?

試訳:そのメッセージのしつこさのせいで、より多くの聴衆に届くことを期待して、(特にチェルノブイリ以降)イリガライが言語の中での仕事を脇に置いて、言語について話すようになったこのメッセージは何でしょうか?
チェルノブイリ
しつこさのせいで、であっている?

25

両性の主体性を引き受けることが解決策である。聖書の失楽園が女性を受動性に追いやった。イリガライの言語についての著作はこの失楽園を取り消すことを目的としている。

表現

jubilation 歓喜

26(p. 258)

イリガライは神話を特定の時代の社会の秩序立てを表現していると考えている。文化的な不正義を言語で克服する。性的な解放は言語の変化を通じて起きる。

表現

come about 生じる

27

翻訳が言語の「あいだ」に漂うことならば、イリガライ的な力につながる。

表現

bring about 生じさせる
bring over 連れて行く

28(p. 259)

翻訳することでただよう独特の距離感をつくり、翻訳が可能性の領野を修正し翻訳が修正される。

表現

afloat 浮かんで
ether エーテル
mediative 仲介の
trance 忘我
mooring 係留